Piranesi. The Complete Etchings

本書は18世紀イタリアの版画家・建築理論家ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ（Giovanni Battista Piranesi, 1720–1778）による全エッチング作品（約1350点）を網羅した、カタログレゾネです。
収録内容 には《Vedute di Roma》ローマの古代遺跡や都市景観を描いた137点の連作、《Carceri d’Invenzione》幻想的で錯綜した牢獄空間を描いたシリーズや《Antichità Romane》古代ローマの建築・装飾・碑文を記録した考古学的図版集など、編集は美術史家ルイジ・フィカッチ（Luigi Ficacci）が担当。彼はローマ国立版画研究所のキュレーターを務め、17〜18世紀のイタリア美術に精通した研究者です。各作品には詳細な解説が付され、ピラネージの技法、思想、歴史的文脈が丁寧に読み解かれています。

牢獄シリーズ《Carceri》では、遠近法の操作、スケールの誇張、空間の反転などが駆使され、現実を超えた建築的幻想が展開されます。これらは舞台美術や夢幻的空間の先駆として、ボルヘス、カフカ、ポー、シュルレアリスト、映画監督テリー・ギリアムらに影響を与えました。
また、《Vedute》シリーズでは、ローマの廃墟が劇的な明暗（キアロスクーロ）で描かれ、グランドツアーの旅行者たちにとって「古代ローマの記憶」を形成する視覚的記号となりました。

ピラネージの作品は、単なる記録ではなく、建築空間の哲学的・詩的探求として再評価されており、現代建築理論や空間芸術にも通底する思想的資源と見なされています。